「コラボレーションの美学」
Michael J. Crosbieのまえがきからの引用
現代の建築作品の創造の成功は、デザイン教育では通常議論されず、批評や理論では滅多に考慮されず、専門職とその遺産に関するほとんどの著作ではしばしば欠けているもの、つまり人間関係によってなされています。現実には建築は良くも悪くも、設計を初期の段階から3次元の世界へ移行し、4次元の世界である時間の中で生きるものとして、関与する多数の人々の間で発生する相互作用の結果です。複雑なプロジェクトでは、クライアント、建築家、コンサルタント、および新しい建築作品を実現するという共通の目標のもと集まったプロジェクトチームとして、何千人もの人々が関与する可能性があります。
デザインディベロップメントのプレゼンテーションでの、デボン・エナジー社のクレイ・キンカー氏とジョン・ピカード

「ピカード・チルトン:コラボレーションの美学」という本は、建築をクライアントと建築家の間の協働による芸術として理解することに目が向けられていないことを見直そうとしています。これは、私たちの会社に浸透している価値観であり、私たち建築家が共に働くクライアントと共有される価値観です。これらの関係性の文書化は、コラボレーションの技術とそれによるメリットのモデルとして、他の建築実務家や計画を検討しているクライアントに向けたものです。

掲載されている個々のプロジェクトの設計プロセスへのアプローチは、クライアントの世界観と価値観を深く理解し、評価することによって生み出され、理想的に完成した建築に反映されたものです。建築を作ってゆく上でのクライアントとのコラボレーションの美学のポイントとしては、建築家が、誰と一緒に働いているか、誰のために建築ソリューションを検証しているのか、を意識し続けるということです。

クライアントのオフィスで高輪ゲートウェイシティのモデルの詳細について話し合うウィリアム・チルトン

このコラボレーションの美学が、クライアントから明確に示された価値観を反映したデザインに結晶させます。建築は、コラボレーション技術の文脈の中で議論され実態となってゆきます、これが私たちの会社のアプローチを際立たせるものとなっています。各チャプターでは、7つのコラボレーション要素がそれぞれ紹介され、クライアントと建築家がおたがいどのように理解しているか、またそれがどのように建築デザインに表現されたかを紹介します

聞くこと クライアントも建築家もお互い話を聞きますが、その中でも建築家は特に積極的に話を聞くよう努めます。私たちは、クライアントとの会話でいつ静かにするべきかを知っています。建築家はクライアントとのやりとりにおいては沈黙することを気にしません。

親密となること: これにより、クライアントと建築家との間で情報やアイディアを交換することが容易に、また快適になります。親密さはコミュニケーションのキーであり信頼の一部です。また、率直で時には難しい会話の機会ともなります。

学ぶこと:建築家は常にクライアントから学びます。一緒に建築物を作るという経験は、デザイナーに、自分自身とクライアントの希望に挑戦し、新しい理解に到達するための複数の学びの機会を提供します。

コンセンサスの形成:すべてのプロジェクトは、アイディアの授受から生み出されてきます。最終的には、建築は両当事者のアイディアを反映し、アイディアが絡み合って結果が単なる合計よりも大きなものとなることもあります。建築はコンセンサスであり、コラボレーションの結果です。

表現すること:これはデザインのアイディアを探求するための不可欠な要素です。建築家、クライアント、コンサルタントなどは、プロジェクトの期間を通じコラボレーションの過程でさまざまなレベルでコミュニケーションを取るために、さまざまな表現手法を駆使します。

相互の信頼:クライアントと建築家は相互の信頼を構築し、関係性とプロジェクトが構築される基盤として、たとえそれらが必ずしも共有されていなくても互いの価値観を理解しようと努めます。

時間と場所:最終的に、建築家はクライアントやコラボレーターとのプロセスを通じて、その時間と場所に適したソリューションである建築を創造しようとします。これは、エーロ・サーリネンやケビン・ローチ、また私たちがそのコラボレーティブなアプローチに影響を受け、流れをくむシーザー・ペリなどの建築家の伝統を引き継いでいます。

著者 マイケル・J・クロスビー博士、FAIA
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